2008年10月27日月曜日

【参加報告】日本測地学会2008年公開講座「函館から地球と月を考える」

表題の公開講座に行ってきました。




講座の情報はこちら。
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日本測地学会2008年公開講座のご案内
函館市防災情報サイトに掲載された開催案内(PDFファイル)
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日本測地学会のwebサイトによると,測地学会ではおおよそ1年に一度,国内のどこかで公開講座を開いているようです。

会場で受付を担当されていた方の話によると,今年は演者の一人,笠原稔さんの引退に合わせて北海道開催としたそうです。
笠原さんは2000年の有珠山噴火のときによくテレビに出ていたので以前から名前を知っていました。
今回は今までの研究を総括されるような,北海道の地震の話をしていました。

他の演者は国立天文台の佐々木晶さんと北海道大学の大島弘光さん。

佐々木さんは国立天文台のRISE月探査プロジェクト長。

「かぐや」による月探査の概要と最新の結果を紹介していました。
引き付ける動画や最新の衛星からの映像の使い方,丁寧な語り口から,一般向けに話慣れているように感じました。
印象に残ったのは,なぜ(大型プロジェクトとなる宇宙観測の中で)月探査が行われているのかその意思決定のプロセスについての問いに対しての答えです。
地球から近いのに多くの課題が残っている,将来の資源探査の対象となり得るという状況説明に加えて,
「意欲のある多くの研究者が月の研究をしたいと多くの人を動かしたから」という趣旨の回答をされていました。
天文学の中の月探査に関わる分野の人たちが,研究者を育て,大型プロジェクトを実行する能力を蓄えてきたということなのでしょう。
研究と教育,双方に大きな力を注いできたという自負を感じました。

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大島弘光さんは,現場主義といった風貌で,観測時に着ているのであろう作業着で演台に立たれていました。
私も研究者として野外観測を行っていたことがあるので,あの雰囲気,よくわかります。
有珠山,樽前山,そして駒ケ岳の噴火の話をしていました。
お話の内容は,はっきりいって難しかったです。
ある程度予備知識のある,大学院修士の学生向け講義のレベルでしょう。
面白かったのは,「噴火」の定義を尋ねたときに,誰もが噴火だ,と思うようなものが噴火で厳密に定義するのは難しいという答えがかえってきたことです。
長期的な噴火のタイミング予測には10年以上の幅があること,
色んな噴火の観測事例からら噴火のタイミング予測を試みているが,当たったり外れたりがあること,
この2点がお話から学んだことです。

そう言えば,2000年の有珠山噴火の際の迅速な避難を実現した背景には、顔の見える信頼関係があったという話がありました。はずれてもこの研究者の言うことなら仕方がない,そういう信頼関係が必要なのでしょう。サイエンスサポート函館も一役買いたいところです。

「降下軽石」という聞き慣れない語が出てきたので後から質問にいってみました。
降下軽石は軽石が降ってくるもので,映画「日本沈没」でビルを破壊していた火山弾とは別物のようです。
降下軽石や火山灰で死者がでることはほとんどないと聞きました。実際大島さんは
駒ケ岳の噴火でで死者が出たのはほとんどが火砕流によるものだ,との話でしたが,遠くまで火山弾が飛んできて危険を及ぼすこともないとは言い切れないそうです。

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笠原稔さんの話も大学院生向けの講義のようでした。
プレートテクトニクスの話からはじまり,地震のメカニズム,マグニチュードの話,千島海溝沿いの周期的な地震の話,ロシアとの共同研究が必要なアムールプレートの話,函館近くの活断層の話,と盛りだくさんでした。
一時間では内容をフォローし切れませんでした。
私が気になったのは函館に直下型地震による大きな地震被害をもたらすかも知れない活断層と次回の地震発生タイミング予測の話。
活断層を調べると,だいたい何年間隔で地震が起きているかがわかるので,それを元に,次にいつ地震が来るのかを予想します。
うろ覚えでいい加減な情報を出すのはよくないので,数値や場所は控えますが,地震の間隔は過去2回のイベントから算出しているそうです。
おそらくは活断層調査は掘るのが大変なので過去の地震2回分の断層までを掘り出し,間隔としては1つのサンプルから地震の周期性を出しているということです。
きっと誤差も大きいのでしょう。
うーん,もっと知りたくなりました。
そもそも活断層というのは何なのか,
どうやって活断層をみつけるのか,
函館周辺で新たに活断層が見つかる可能性はあるのか,
活断層にて新たな断層が出来るときどの程度の規模の地震が起こるのか,
それはどうやって推定してどの程度の誤差があるのか,
地震の時間間隔の算出根拠は何か,
それにはどの程度の誤差があるのか,等々。

これもサイエンスサポート函館でぜひとも扱いたい話です。

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さて,今回の講演会,それぞれの分野のトップレベルの研究者が3人講演しました。
それに対して聴衆は40人程でした。話の内容が難しく,それ故に質問がほとんど出なかったように感じました。

もったいない,というのが私の感想です。

例えば,聴衆に対してプレレクチャーがあれば,もう少し話を理解出来たし質問も出来たでしょう。
あるいはもっと具体的な切り口を用意すれば話を聞きやすかったかも知れません。

聴衆が話の内容を理解することのみがゴールだとは思いません。
仕事の深みを知る,
何に情熱を燃やしているのかを感じる,
何がわかっていないのかを知る,
この種の講演会に来て聴衆が持ち帰るのは人それぞれです。

話が難しすぎたのがダメなのではなく,聴衆が引っかかれるポイントが少なかったことに難点があると思いました。

伝わらないのがもったいない。

私が主催者なら,どうイベントを行ったでしょうかねえ。

メインゲストを一人にして,その前に前座のレクチャーをその分野の学生さんにやってもらったでしょうか。
学びはじめたばかりの人は何がポイントか感覚的に知っているので。

あるいは話者に頼んでテーマをもっと絞り込んでもらったでしょうか。