2008年10月29日水曜日

【コーディネーターの考え事】評価の話

サイエンスサポート函館の仕事は,文部科学省所管の独立行政法人,科学技術振興機構(JST)地域科学技術理解増進活動推進事業,地域ネットワーク支援を受けています。

ちなみに私たちが行う企画には書類上「科学技術理解増進活動」という名前が付けられています。
個人的には,私たちが行う企画のゴールを,
科学技術の理解ではなく,
何かを感じたり,
身の回りの科学技術との付き合い方を自分で考えたり,
科学技術をきっかけとして新たなコミュニケーションの機会をつくることに設定したいと考えています。
ですから,科学技術理解増進活動と呼ぶことには違和感を感じています。

さて,科学技術理解増進活動では,JSTが示す様式に記載された項目を盛り込んだ参加者アンケートを実施しなければなりません。
アンケートを行う目的は,基本的にはその企画を評価し以降の企画をよりよくするための情報を得ることにあります。
JSTへ提出しなければならないアンケートは,評価のことを忘れてはいけないよ,という私たちへの指摘だと理解しています。意味のある効果的な評価は自分たちで考えて行わなければなりません。
そこで先日多くの科学技術に関連した多数の企画を行ってきたグループに評価の秘訣を聞いてみました。

回答は興味深いものでした。

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アンケートでこれを聞けば良いという魔法の質問などはない。
アンケートで評価項目を作って数値化することに意味がないわけではないが,それよりも質の方が大切。
何かを伝えたいと思ってくれた人からどれだけの話を得られるかが大事。
そのためにはアンケート後に個別にインタビューに行ったりもした。
スタッフが自分たちで感じたことや直接コメントされたことを集約し議論する場を毎週設けた。
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何かを感じた人,何かを伝えたいと思ってくれた人からいかに情報を引き出すかが重要です。
その場としてアンケート用紙の記入欄は小さすぎるかも知れません。
スタッフ自身がセンサーとなり,互いが感じたことをフィードバックすることも大切です。

話を聞いて,生協の白石さんを思い出しました。
「ひとことカード」は何か伝えたいことを引き出すための効果的なプラットフォームです。

また,マーケティングリサーチとも親和性が高いのかなと思いました。

2008年10月27日月曜日

【参加報告】日本測地学会2008年公開講座「函館から地球と月を考える」

表題の公開講座に行ってきました。




講座の情報はこちら。
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日本測地学会2008年公開講座のご案内
函館市防災情報サイトに掲載された開催案内(PDFファイル)
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日本測地学会のwebサイトによると,測地学会ではおおよそ1年に一度,国内のどこかで公開講座を開いているようです。

会場で受付を担当されていた方の話によると,今年は演者の一人,笠原稔さんの引退に合わせて北海道開催としたそうです。
笠原さんは2000年の有珠山噴火のときによくテレビに出ていたので以前から名前を知っていました。
今回は今までの研究を総括されるような,北海道の地震の話をしていました。

他の演者は国立天文台の佐々木晶さんと北海道大学の大島弘光さん。

佐々木さんは国立天文台のRISE月探査プロジェクト長。

「かぐや」による月探査の概要と最新の結果を紹介していました。
引き付ける動画や最新の衛星からの映像の使い方,丁寧な語り口から,一般向けに話慣れているように感じました。
印象に残ったのは,なぜ(大型プロジェクトとなる宇宙観測の中で)月探査が行われているのかその意思決定のプロセスについての問いに対しての答えです。
地球から近いのに多くの課題が残っている,将来の資源探査の対象となり得るという状況説明に加えて,
「意欲のある多くの研究者が月の研究をしたいと多くの人を動かしたから」という趣旨の回答をされていました。
天文学の中の月探査に関わる分野の人たちが,研究者を育て,大型プロジェクトを実行する能力を蓄えてきたということなのでしょう。
研究と教育,双方に大きな力を注いできたという自負を感じました。

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大島弘光さんは,現場主義といった風貌で,観測時に着ているのであろう作業着で演台に立たれていました。
私も研究者として野外観測を行っていたことがあるので,あの雰囲気,よくわかります。
有珠山,樽前山,そして駒ケ岳の噴火の話をしていました。
お話の内容は,はっきりいって難しかったです。
ある程度予備知識のある,大学院修士の学生向け講義のレベルでしょう。
面白かったのは,「噴火」の定義を尋ねたときに,誰もが噴火だ,と思うようなものが噴火で厳密に定義するのは難しいという答えがかえってきたことです。
長期的な噴火のタイミング予測には10年以上の幅があること,
色んな噴火の観測事例からら噴火のタイミング予測を試みているが,当たったり外れたりがあること,
この2点がお話から学んだことです。

そう言えば,2000年の有珠山噴火の際の迅速な避難を実現した背景には、顔の見える信頼関係があったという話がありました。はずれてもこの研究者の言うことなら仕方がない,そういう信頼関係が必要なのでしょう。サイエンスサポート函館も一役買いたいところです。

「降下軽石」という聞き慣れない語が出てきたので後から質問にいってみました。
降下軽石は軽石が降ってくるもので,映画「日本沈没」でビルを破壊していた火山弾とは別物のようです。
降下軽石や火山灰で死者がでることはほとんどないと聞きました。実際大島さんは
駒ケ岳の噴火でで死者が出たのはほとんどが火砕流によるものだ,との話でしたが,遠くまで火山弾が飛んできて危険を及ぼすこともないとは言い切れないそうです。

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笠原稔さんの話も大学院生向けの講義のようでした。
プレートテクトニクスの話からはじまり,地震のメカニズム,マグニチュードの話,千島海溝沿いの周期的な地震の話,ロシアとの共同研究が必要なアムールプレートの話,函館近くの活断層の話,と盛りだくさんでした。
一時間では内容をフォローし切れませんでした。
私が気になったのは函館に直下型地震による大きな地震被害をもたらすかも知れない活断層と次回の地震発生タイミング予測の話。
活断層を調べると,だいたい何年間隔で地震が起きているかがわかるので,それを元に,次にいつ地震が来るのかを予想します。
うろ覚えでいい加減な情報を出すのはよくないので,数値や場所は控えますが,地震の間隔は過去2回のイベントから算出しているそうです。
おそらくは活断層調査は掘るのが大変なので過去の地震2回分の断層までを掘り出し,間隔としては1つのサンプルから地震の周期性を出しているということです。
きっと誤差も大きいのでしょう。
うーん,もっと知りたくなりました。
そもそも活断層というのは何なのか,
どうやって活断層をみつけるのか,
函館周辺で新たに活断層が見つかる可能性はあるのか,
活断層にて新たな断層が出来るときどの程度の規模の地震が起こるのか,
それはどうやって推定してどの程度の誤差があるのか,
地震の時間間隔の算出根拠は何か,
それにはどの程度の誤差があるのか,等々。

これもサイエンスサポート函館でぜひとも扱いたい話です。

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さて,今回の講演会,それぞれの分野のトップレベルの研究者が3人講演しました。
それに対して聴衆は40人程でした。話の内容が難しく,それ故に質問がほとんど出なかったように感じました。

もったいない,というのが私の感想です。

例えば,聴衆に対してプレレクチャーがあれば,もう少し話を理解出来たし質問も出来たでしょう。
あるいはもっと具体的な切り口を用意すれば話を聞きやすかったかも知れません。

聴衆が話の内容を理解することのみがゴールだとは思いません。
仕事の深みを知る,
何に情熱を燃やしているのかを感じる,
何がわかっていないのかを知る,
この種の講演会に来て聴衆が持ち帰るのは人それぞれです。

話が難しすぎたのがダメなのではなく,聴衆が引っかかれるポイントが少なかったことに難点があると思いました。

伝わらないのがもったいない。

私が主催者なら,どうイベントを行ったでしょうかねえ。

メインゲストを一人にして,その前に前座のレクチャーをその分野の学生さんにやってもらったでしょうか。
学びはじめたばかりの人は何がポイントか感覚的に知っているので。

あるいは話者に頼んでテーマをもっと絞り込んでもらったでしょうか。

2008年10月23日木曜日

【メディア掲載情報】毎日新聞2008.10.19朝刊

毎日新聞の理系白書に,
”「科学を文化に」地方からも発信”という見出しでサイエンスサポート函館の美馬のゆりへのインタビューに基づく記事が掲載されました。
web記事でも読むことが出来ます。

サイエンスサポート函館のミッション

#この投稿はコーディネーターの金森の個人的な考えです。

ミッションとは,自分たちの目指す姿,社会に対して果たしたい使命のことをいいます。

サイエンスサポート函館では,
”国際交流都市函館の地域ネットワークを活かして,市民の日常生活の中に科学を文化的活動として根付かせ,市民や子どもの科学技術への関心を喚起する”
というミッションを掲げています。

ちょっと難しいです。

正直,科学を文化的活動として根付かせる,というのがどういう状況を指すのか,私(=コーディネーターの金森)はよくわかっていません。

「科学を文化に!」がスローガンです。

これも,なんだかすごいと思いますが,内容が良く分かりません。

私は「文化」という言葉とはちょっと距離を置いて,次のように考えています。

ゴールは”函館とその周辺に暮す人,訪れる人が,科学技術に関連したことを「自分たちのこと」として考えるようになること”。

例えば,地域の地震防災を考えるときに,難しそうと敬遠せず地震の仕組みや建物の耐震構造について考えて頂きたい。
例えば野菜の残留農薬の話がニュースになったとき,ただ不安がるのではなくて,何がどの程度危険なのか,考えて頂きたい。
もちろん,でんじろう先生のやっているような理科実験を通して身の回りの現象の仕組みにワクワクしても頂きたいのですが,それだけではないのです。

私たちの生活のほとんどが科学技術に下支えされています。そのことに気づき,科学を敬遠せず,うまい付き合い方や使い方を日常から考え,楽しんで欲しいのです。
そうすればきっと日常が楽しくなったり,社会の問題にうまく対処出来たり,次世代の科学者を生み出す土壌をつくったりすることが出来ます。

そういうまち,ちょっと格好良くないですか?

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もう一点,ミッションに関連して。
ミッションにある”科学”,サイエンスサポート函館の”サイエンス”は基本的には自然科学を指しています。しかしながら,人文科学の分野の話題との組み合わせた企画やイベントにも積極的に取組んでいこうと考えています。

サイエンスサポート函館とは?

2008年,JST(科学技術振興機構;文科省所管の独立行政法人)が募集していた地域ネットワーク支援事業に,函館市提案の「国際交流都市函館の地域ネットワークを活かした科学文化の醸成」という企画が採択されました。
この企画を実施するための組織が「サイエンスサポート函館」です。

「科学を文化に!」のスローガンのもと,
-はこだて国際科学祭,
-はこだて科学網,
-はこだて科学寺子屋
の3事業を行います。

全体を統括するのは美馬のゆり・公立はこだて未来大学教授。

その他,函館市企画部,公立はこだて未来大学,青少年のための科学の祭典函館大会,函館市地域交流まちづくりセンター,函館工業高等専門学校,キャンパスコンソーシアム函館,北海道大学CoSTEP,北海道大学大学院水産科学研究院,北海道教育大学函館校,他が参加協力しています。

唯一の専属スタッフは,コーディネーターの金森晶作。
普段は公立はこだて未来大学におります。
#このブログの主著者です。

私たちがJSTの地域ネットワーク支援を受けるのは2010年度までですが,サイエンスサポート函館では函館周辺地域に科学技術に関連した企画やイベントのネットワークを構築し,その後も自律的に活動していく予定です。